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クラクフ旅日記:2013年7月22日

 今日から国際美学会が本格的に開幕するということで、オープニング・セレモニーから出席する。学会の実行委員会代表の司会の下、国際美学会の代表や、クラクフの副市長、それにヤギエヴォ大学の哲学部長などが挨拶に立つ。パワフルな女性の副市長の挨拶も面白かったが、内容的には、美は生きる喜びを形にしたもので、日々の仕事に力を与えるといった詩を引いた哲学部長の話が印象的だった。
 午前中は、このセレモニーに続いて、国際美学会の会長の基調講演、あるいは学会創立百周年の記念講演が行なわれた。現代中国の独立した芸術家たちの動きを、文化大革命の終焉、そして毛沢東の死ということを踏まえつつ辿って、中国の現代芸術が、書をはじめとする伝統が息づくなかに、最新の技術が浸透していくという独特の発展を遂げつつあることに光を当てたもの。ウォーホルの毛沢東像以後、毛沢東の顔がシンボリックなアイコンとして機能してることなど、たしかに特徴的だが、しかし天安門事件以後、ということにまったく言及がなかったのは、いったいどういうことだろう。それに学会そのものを代表する講演で、そもそもなぜ中国の現代美術なのか。いくつもの疑問が残る内容だった。
 地下のビストロで、スープと鶏肉料理のなかなか美味しい昼食を食べた後、午後は夕方のクラクフ・フィルハーモニー・ホールでのパネル・セッションまで、ヴァヴェル城のほうへ出かける。城内の大聖堂だけ見てみた。もともとロマネスク様式で建てられた教会に、ゴシック、ルネサンス、バロックの様式で礼拝堂が建て増しされていき、整理のつかない印象の外観で、内部もこれまた非常に壮麗。祈りの場としては落ち着きに欠ける印象もなくはない。ポーランドの基礎を築いた王たちや聖人たちの墓が並ぶ。
 いったん宿に戻った後、緑が心地よい公園を抜けて、夕方の会場のフィルハーモニー・ホールへ。参加の美学をテーマにしたパネル・セッションが最初に行なわれたが、意識的な知にちょって統御されること、あるいは情報として処理されることを超えた、すぐれて美的なイメージが、他者と呼応し合うなかに、あるいは環境との感応のうちに立ち現われてくることに光を当てた、最初の二人の報告は、それなりに興味深い内容だったが、都市環境や自然環境との関わりに力点を置いた残りの二人の報告は、聴いていて焦点が定まらない。
 ごった返したホールのホワイエでの軽食の後、ヤチェク・カスプツィクの指揮による、クラクフのベートーヴェン・アカデミー管弦楽団の演奏会。国際美学会の枠内で開催されるこの演奏会のために作曲された、カロル・ネペルスキという若い作曲家の“Aisthetic Symphony”──「感性の交響曲」とでも訳せばよいのだろうか──なる作品が初演された。オーケストラの楽器によって、あるいはそれ以外の水笛のような楽器によって、さらにはサンプリングされた音声によって響く断片的なモティーフを、いくつもの方向から響かせることで、聴覚を空間的に拡げていこうという発想そのものは理解できるものの、音楽的には面白いところのない単純なモティーフが、これまた単純に、つまり音楽的な必然性なく反復されるのには、正直辟易した。
 この曲は形式的にはポスト・モダン的と言えようが、聴いていてポスト・モダン的な解放感もない。そのような、「交響曲」と名乗る意味も理解できない作品のあたかも一部のように、19世紀ポーランドの作曲家イグナシー・フェリックス・ドブルツィンスキが書いたオペラの序曲──少し初期のヴェルディを思わせる雰囲気の曲だった──を挿入するというのも、この作曲家に対して敬意ある態度とは言えないだろう。それぞれは非常に優れた演奏家と思えるオーケストラのプレーヤーが、それなりにパフォーマンスを楽しみながら演奏していたのが、救いと言えば救いか。
 旧市街の中心から一つ路地を入ったところの小さな店で友人たちとサラダの夕食を取った後、宿に戻って翌日の発表の準備をしたが、今朝3時過ぎに目が覚めてしまったこともあり、すぐに眠くなってくる。

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