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ライプツィヒ&ドレスデン旅日記:11月6日

 午前中にライプツィヒを発ってドレスデンへ向かう。少し買い物をしてから特急に乗り、1時間ほどで到着。新幹線で広島から博多まで行くような感じだろうか。ある程度改装された駅舎からの見通しもずいぶん良くなっている。着いたその足で、ツヴィンガー宮殿内の絵画館を訪れ、初期フェルメール展を見る。ドレスデンにある初期フェルメールの作品と言えば、「遣り手婆」だが、それに加え、エディンバラの「マリアとマルタの家のキリスト」と、デン・ハーグの「ディアナとニンフたち」が展示されていた。最初期のフェルメールの画法の洗練の過程がうかがえるのが興味深い。同時代の同じ主題の絵画とともに、これも比較的初期に属するドレスデンの所蔵作品、「手紙を読む少女」と、それに使われているのと関連のある陶磁器の類や、その頃の顕微鏡に地球儀なども展示されていたが、見応えがあるのはやはり作品そのものである。「手紙を読む少女」の静けさのなかに眼を沈めているあいだが、この美術館にいるなかで最も幸福な時間である。とはいえ、やはりいつものギャラリーで見たかった。この絵の構図を三次元的に再構成した部屋も設けられていたが、それをさらに二次元の画面に翻訳するプロセスまで空間的に構成したら、もっと興味深かっただろう。
 絵画館の常設のコレクションのなかでは、前に訪れたときに展示されていなかったライスダールの「ユダヤ人墓地」を見られたのが嬉しかった。墓地が一つの廃墟をなしていて、そのなかを水が流れているあたり、ベンヤミンの「自然史」の概念を連想せずにはいられない。仮借のない自然の衰微の過程に置かれた墓石の異様な存在感。それ以外の絵では、やはりジョルジョーネとティツィアーノによる「微睡みのヴィーナス」がやはり魅力的。ここにあるティツィアーノの作品は傑作揃いだ。後期レンブラントの老人像の深さにも惹かれる。
 絵画館を出ると、朝からの雨風が強まっているが、じっとしていても仕方ないので、冷たい雨に濡れながらエルベ川を渡って、対岸のウェスティン・ホテルにチェック・インする。部屋でしばらく本を読んだ後、新市街へ出て軽く何か食べようとぶらついているうちに市場にぶつかった。そこの肉屋が出している熱くて少しスパイシーなソリヤンカ・スープを食べてから、早くも売り出されていたクリスマスのシュトレンなど、お土産を買い求める。
 部屋に戻って身支度をしてから、細川さんたちと落ち合い、演奏会場の聖母教会へ向かう。広島やバーデン・バーデンで知り合った人々が何人も来ている。19時から行なわれた、細川さんと、ドレスデン・フィルハーモニーのマネージャーとの対談による作品紹介の最後に、プログラムに解説を書いたラインハルト・マイアー=カルクスさんが、作品に用いられているトラークルとショーレムの詩を朗読したのが印象的だった。
 20時から始まった演奏ではまず、ハイドンのオラトリオ「天地創造」の冒頭のカオスの音楽が演奏され、次いでアタッカのように細川さんのオラトリオ「星のない夜」の演奏が始まった。レナード・スラトキン指揮によるドレスデン・フィルハーモニーの演奏は、横の流れを重視したもので、バーデン・バーデンの初演のときよりも作品が全体的にロマンティックに響いた。オーケストラのプレイヤーが真摯に作品に取り組んでいて、そのため力強い響きが生まれていたし、とくにドレスデンの墓標の楽章など、凄まじいまでの迫力だったが、長い残響のためもあって、ピアニッシモが静まりきらない嫌いがあり、構造的な一貫性も後退してしまったのはやや残念。合唱は、初演と同じケルンの西部ドイツ放送合唱団。二度目ということもあり、聴かせどころを抑えた見事なものだった。2人のソプラノ独唱にも不満な点が残った。とくに広島の原爆をして体験した子どものテクストにもとづく楽章には、今一歩踏み込んだ表現を求めたかったところ。逆にアルト・フルートの独奏は、鋭い息による素晴しい演奏だった。
 このように、演奏にはいくらか問題が残るとはいえ、ドレスデンとヒロシマに捧げられたオラトリオが、聖母教会という歴史的な場所で、その垂直的に壮大な空間を満たす仕方で響いたことの意味は大きい。この作品をとくにドレスデンの人々がどう受け止めたのか、新聞などの評価が気になるところである。フランクフルター・アルゲマイネの記者は来ていたとか。終演後、先に触れたドレスデン・フィルハーモニーのマネージャーやマイアー=カルクスさん、ドレスデン在住の音楽学者などと近くのイタリアン・レストランで食事をしながら、零時頃まで感想など語り合った。

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