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ベルリン放送交響楽団演奏会

 2月7日、岩国駅近くにあるシンフォニア岩国で開催されたベルリン放送交響楽団の演奏会を聴く。指揮は、このオーケストラの音楽監督を務めるマレク・ヤノフスキ。この組み合わせ、今から4年ほど前にベルリンのフィルハーモニーで聴いたことがある。そのときはR・シュトラウスのアルプス交響曲で、フィルハーモニーの舞台を埋め尽くす大編成のオーケストラが見事なアンサンブルを聴かせてくれたのだった。その記憶もあって楽しみに出かけた。
 プログラムはすべてベートーヴェンの中期作品で、最初に演奏されたのは「エグモント」序曲。ヤノフスキは、最近しばしば見られるように、ピリオド楽器での演奏を意識して弦楽器の人数を減らしたり、ピリオド楽器の奏法を取り入れたりはしない。フル編成のオーケストラをしっかりと鳴らしきる。それがむしろ小気味よいくらいだった。序奏部での弦楽器のユニゾンは、各セクションの緊密なアンサンブルと相まって、風圧が伝わってくるような響きで、そう、このような響きを聴きたかったのだ、と思ったくらい。とはいえ、緻密な構成力に定評のあるヤノフスキのこと、けっして豪放さを強調する方向へ走ることはない。バスがどっしりと座ったピラミッド型の音響をベースに、ダイナミクスの違いをきちんと描き分けていたのが印象的だった。そのバスが肺腑をえぐるようにクレッシェンドを主導するのが、この作品にはとくにふさわしく、主部のクライマックスの悲劇性をより深いものにしていたように思う。内声部のリズムの躍動感も素晴らしく、それが音楽に推進力を与えるとともに、壮麗なコーダをより感動的なものにしていたのではないだろうか。一曲目からして聴き応え充分であった。
 次にヴァイオリン協奏曲が演奏されたが、独奏を担当した樫本大進は、第二楽章まではとても小さく見えた。第一楽章では、オーケストラの響きの深さに、樫本の表現が拮抗しえていなかったように見える。独奏が登場する最初の上昇音型のパッセージからして、高音が今ひとつ輝かない。オーケストラがトゥッティで演奏するなかで弾くときなど、自分の音を引き立たせようとすればするほど、表現が縮こまってしまったように見える。細部に工夫の跡が見られるだけに惜しまれる。ようやくカデンツァに入って、解き放たれたかのように、伸びやかな音で素晴らしい技量を聴かせてくれた。第二楽章以降は、オーケストラの響き自体が少し薄くなることもあって、樫本の音は輝かしさを増したように思う。とくにフィナーレは、全体として感興と躍動感に満ちた演奏に仕上がっていた。ただ、緩徐楽章での樫本の表現はいささか表面的に流れた感があり、伴奏のオーソドックスなアプローチと対比して少しちぐはぐな印象を受けた。もしかするとそのあたりが、第一楽章で「小さく」なってしまった要因かもしれない。
 さて、休憩後に演奏されたのは第5交響曲。全体として、フォルテとフォルティッシモの音量を明確に区別しながら、引き締まった響きとテンポで全体を運んでいたが、実際に聴いているあいだは、そのような演奏として対象化されている印象はまったく受けない。あの単純な動機を積み重ねることで構成された音楽に自然に身を委せ、リズムの躍動を肌で感じ、それがクライマックスへ突き進むのに胸を熱くすることができた。そのように音楽そのものが伝わるのは、ヤノフスキとベルリン放送交響楽団の楽員が、このあまりにも知られた作品の内実を共有しているからだろう。両者は特別なことは何ひとつしていない。ただ、書かれている音をこの両者なりに音にしきっているだけである。そのことが、音楽そのものの構成によって生そのものの力強さと一体となったベートーヴェンの音楽として、聴衆の心を動かしうることを、あらためて実感させられた。とりわけ、内声部でリズムを刻む一音一音もおろそかにすることなく弾ききって音楽に献身する姿には心打たれる。また、全曲を通してファゴットが素晴らしい演奏を聴かせてくれた。これを含めたバスの声部が、一歩一歩大地を踏みしめながらクライマックスへとひた走る音楽の推進力とリズムの躍動感を支えていたことはいうまでもない。これほど堅固でありながら、音楽の喜びに満ちたベートーヴェンが聴けることは、めったにあることではないだろう。
 アンコールには、第8交響曲の第2楽章が演奏された。こちらは、先の曲よりも解き放たれた感じで、楽員たちもいっそう伸び伸びと演奏していたように見える。感興に満ちた素晴らしい演奏だった。
 これほどのベートーヴェンが聴けるのに、聴衆が少なかった(前二列くらいごっそり空いていた)のは非常に惜しまれる。また、この会場に海外のオーケストラが来るのは4年半ぶりとのこと。ホールの響きはそう悪くないだけに、これも寂しい気がしてならない。
 

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