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「ピカソとモディリアーニの世界」展

 ひろしま美術館で開催されているリール近代美術館所蔵品による展覧会「ピカソとモディリアーニの時代」を訪れる。リール近代美術館のコレクションは、キュビスムをはじめとする20世紀前半の芸術運動のよき理解者だったロジャ・デュティュとジャン・マジュレルというコレクターのコレクションにもとづいているとのことであるが、とりわけキュビスム期のピカソと、同じ頃に人間存在の本質へ向かうまなざしを研ぎ澄ませていたモディリアーニのすぐれた作品が集められているのが眼を惹く。
 モディリアーニの作品のなかでは、やはりルネサンスの宗教画を思わせるような母子像が印象的。彼の作品には珍しく、親密な雰囲気を漂わせているが、母と子の絆の精髄に迫ろうとするかのようなまなざしはやはり鋭い。一切の虚飾を廃した静謐な表現は、ラファエロよりはメムリンクのような北方ルネサンスの画家の宗教画を思い起こさせる。
 今回見ることのできたキュビスム期のピカソの作品のなかでは、二個のりんごを中央に配した静物画が最も完成度の高い作品に思われた。落ち着いた色彩の見事な配置が、求心力のある画面の構成と、りんごをはじめ描かれた物体の確かな質感に結実している。ピカソの作品としては、迷いのない闊達な筆さばきで、彼らしい力強さを鮮やかに示す、晩年の女性像も印象的だった。
 キュビスムと言えばブラックも忘れてはならない。ピカソとともにキュビスムを主導していた時期の作品がいくつか展示されていたが、なかでも大聖堂を中心とする街の風景を面の集合体として再構成した作品は、渋い色を基調とする画面のなかに多彩な色彩を秘めていて、見ていて飽きがこない。
 今回の展覧会では、こうしたキュビスムを一つの軸とする20世紀前半のフランスの画家の作品ばかりでなく、シュルレアリスムの影響を受けたスペインの画家ミロの作品も展示されていた。なかでも、ヒトラーが政権を掌握した1933年に絵画の力強さをみずからの手で取り戻そうとするかのように描かれた「絵画」が、ミロの作品には珍しく、重い印象を残す。
 さて、今回の展覧会の最大の収穫は、何と言っても、かなり性格の異なったクレーの二つの作品を見ることができたことである。「十七種の香辛料」は、南国の鮮烈にして豊饒な風景の光彩を、17種類の香辛料の色彩の豊かさに重ねあわせ、モザイク状に構成している。クレーの南国を凝縮させているかのような一枚。見事に区分された領域のあいだを色彩がさざめくように移り変わってゆくなかで、数字が(1から17までの数字が描かれていたが、15が欠けていたのはなぜだろう)踊っているかのようだ。他方で、「のみこまれた島」は、水没した島を魚たちが遊び場にしている様子を、青の静かなグラデーションのなかに描き出している。比較的浅い海を思わせる青の層の重なりあいは、時を止めたかのような静けさと涼しさを感じさせるが、これが濃い青の単色で描かれた魚たちが遊ぶさまと好対照をなしている。そして、このコントラストが、見る者の微笑を誘うような遊びを画面にもたらしているのではないだろうか。「のみこまれた島」は、今回の展覧会で見たなかで最も気に入った一枚である。これ以外に、オレンジを基調として柔らかな運動とともにゆったりとした音楽を感じさせるカンディンスキーの「コンポジション」も傍らに展示されていて、クレーの二つの作品とともに一つの世界をかたちづくっているかのようだった。
 今回訪れた「ピカソとモディリアーニの世界」展は、20世紀前半の芸術運動を展望しながら、すぐれた作品にも触れることのできる貴重な機会と思われた。暗く落とした会場の照明も好ましいが、キャプションによる説明が中途半端に過剰だったように思われる。主催者側に、20世紀前半の美術の動きに見とおしを得てもらい、抽象画アレルギーとでも言うべきものを払拭しようといった啓蒙的意図があるのなら、もっと体系的で立ち入った説明があってもよかっただろうし、個々の作品を見せることに徹するというのではあれば、過剰な説明は不要であろう。それから、これはことあるごとに述べていることだが、一週間ずっと17時に閉館というのは、多忙に働く人びとを美術から排除するのと同じことである。せめて金曜だけでも20時まで開館させることを、広島市の美術館に関係する人びとに切に望む。

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