« 目取真俊「水滴」 | トップページ | 広島交響楽団の定期演奏会 »

東京−ベルリン/ベルリン−東京展

 出張の合間に東京六本木の森美術館で開催されている「東京−ベルリン/ベルリン−東京展」を訪れる。19世紀末から21世紀の現在に至るまでのベルリンと東京の芸術交流の歴史を、絵画、写真、建築、工業デザイン、ライヴ・パフォーマンスといった側面から描き出そうとする実に意欲的な展覧会である。自分に残された2時間ほどではとても充分に作品を見ることができないくらい見ごたえがあった。
 19世紀も終わりにさしかかった頃、新興の明治政府は、ベルリンから建築家を招いて政権の中枢をなす官庁街を日比谷に整備しようとする一方、森鴎外をはじめ若い学者や芸術家をベルリンへ派遣し、当時最新の学問や技術を学ばせたり、新しい芸術の息吹に触れさせたりしていた。そうした公的な交流を背景にしながら、日本の芸術家たちが深いところでドイツの芸術運動からインスピレーションを得ていたことを、最初の数室の展示は示していた。
 ベルリンで作曲を学んでいた山田耕筰と同じくベルリンでデザインを学んでいた斎藤佳三が、表現主義の発信基地とも言うべきシュトゥルム画廊の委託を受けて、第一次世界大戦の始まる1914年に日比谷美術館で開催した表現主義の木版画の展覧会を開いている。今回の展覧会ではそれが半ば再現されていたが、これをきっかけにして、表現主義の運動が日本にも徐々に浸透し始め、またドイツの絵画の潮流が日本でも知られるようになる。そうした動きを受けた日本の芸術家たちの作品が興味深い。
 たとえば岸田劉生はすでにデューラーの人物画を範としつつも、表現主義的な内面の発露を画面にもたらそうとしているし、また萬鉄五郎、東郷青児、普門暁といった芸術家の作品には、「青騎士」の画家たちの影響が色濃く表われている。萬はカンディンスキー風のコンポジションを試みているし、東郷の初期の女性像は、カンディンスキーと見まがうばかりの抽象性と色彩の構築性を示している。また神原泰は、画面に音楽的な運動を生命の流動として導入した作品を残しているし、普門の作品では鹿の姿がマルケの描く馬のように自然の生命の躍動と、そこにある色彩の運動のなかに溶け込もうとしている。
 ところで、最初の展示室には、ドイツ表現主義絵画を代表する一人エルンスト・ルードヴィヒ・キルヒナーの作品も数点展示されていた。今回展示されているキルヒナーの作品はどれも見ごたえがある。何と言っても「ポツダム広場」は、アウラを剥ぎ取られた都市の情景をそこにある速度とともに鋭く描き出しながら、そこに娼婦と思われる女性のこちらを見つめ返すような一瞬の姿を刻印する傑作である。その女性の緑がかった肌の色は、一瞬にして儚く消え去ってゆくものが閃かせるアウラを放つかのようであり、また街路の緑は、いったん神話的なアウラを剥ぎ取られた都市が、再び無限の迷宮を内に宿した自然へと廃墟化しつつあるのを示しているかのようだ。
 さて、ドイツと日本の芸術交流の場としてもう一つ挙げなければならないのは、芸術とそれにもとづく生活空間の再構成、さらには世界変革をも目指した芸術運動としてのバウハウスである。バウハウスの美術学校に留学し、そのエネルギーを日本に持ち帰ろうとした日本人がいた一方で、ブルーノ・タウトは、ナチスによってドイツを追われた後日本に住みつき、その風土を生かした、かつバウハウス的に簡素で洗練された生活空間のデザインを日本に根づかせようと試みてもいた。そうした彼の試みについては、今後再評価が進むかもしれない。また、モニュメンタルな外観によって見る者を威圧するのではなく、人間の生活の場としての内部空間を、それぞれ異なった生活をいとなむ身体性にもとづきながら無駄を削ぎ落としたかたちで再構成し、それにもとづいて建築それ自体を組み立てなおそうとしたこの時代のバウハウス的建築も、バブルの再来とばかりに大都市にいくつもの巨大オフィスビルが建てられている今こそ再評価されるべきであろう。そのように生活空間を内部から再構成することを目指す建築や工芸のデザインにも触れることができたのも、今回の展覧会の収穫だった。
 バウハウスの運動は、ナチスによって押し潰されてしまうが、そうしたナチズムの暴力に対するジョージ・グロスらの風刺的抵抗の絵画も展示されていたし、あるいはファシズムによる政治の唯美主義に貢献したドイツと日本双方のフォト・ジャーナリズムの動きが当時の雑誌などによって描き出されていたのも興味深い。また、第二次世界大戦の敗戦を経験した両国のなかに、戦争の犠牲を神話化するかのような具象画が現われているのは、敗戦の後、両国の人びとがともにその虚構の自己同一性を慰撫する物語を求めていたことを示していよう。そして、それに対する誘惑は未だ死に絶えていない。こうした絵画の問題は、現在の問題でもあるのだ。
 今回の展覧会では、1960年代以降東京とベルリンがともに国際的なフルクサス

|

« 目取真俊「水滴」 | トップページ | 広島交響楽団の定期演奏会 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/126937/9128354

この記事へのトラックバック一覧です: 東京−ベルリン/ベルリン−東京展:

« 目取真俊「水滴」 | トップページ | 広島交響楽団の定期演奏会 »