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ザルツブルク旅日記:1月24日

 凄まじい寒さのなか、まずミラベル宮殿のオランジュリーを改装したバロック美術館で少し絵を見る。バロック期の小人の漫画のような版画が特集されていて面白い。リューベンスやティエポロがぽつぽつとあったけれども、正直言って大した絵はない。個人のコレクションを展示しているらしい。
 その後午前中は、モーツァルテウムの大ホールで、アンドラーシュ・シフのピアノを中心とした室内楽の演奏会を聴く。冒頭に彼の独奏で、モーツァルトがグルックのオペラのアリアの主題を用いて作曲した変奏曲(KV. 455)が演奏されたが、これが実に楽しい。しっかりした音で各変奏の表情を明確に描き出しながら、やや即興的に諧謔も加えつつ弾き進めてゆく。これまで聴いてきたのとはひと味ちがったモーツァルトの顔を見せてくれた。続いて、第41番に数えられる変ホ長調のヴァイオリン・ソナタ(KV. 481)とト長調のピアノ・トリオ(KV. 496)が演奏されたが、シフのピアノの音が少し強すぎる気もしなくはない。この2曲では、エーリヒ・ヘブラートの手堅いヴァイオリンの演奏も光る。休憩後には、クラリネットとヴィオラとピアノのための「ケーゲルシュタット・トリオ」(KV. 498)が演奏された。イェルク・ヴィドマンの伸び伸びしたクラリネットが印象的。それに対して塩川悠子のヴィオラの音は、ヴィオラを本職としないせいか、少し弱い。シフが二人をニュアンス豊かな音でサポートしていた。とりわけ日本ではなかなか触れることのできない、親密な雰囲気に満ちた室内楽の演奏会であった。
 午後は、旧市街の美術館めぐり。まず、ザルツブルクの大司教のあまりにも豪華なレジデンツをひととおり回った後、その上にあるギャラリーへ。シュヴェリーンで見た、カレル・ファブリティウスの、祈るハガルのもとに天使が現われる情景を描いた一枚と再会する。祈る姿に焦点を合わせたこの絵はなかなかの作品だと思う。それと彼の師であったレンブラントによる老婆の絵が眼を惹く。それ以外にバロックの風景画や風俗画がかなり数多く展示されていたけれども、ハッとさせられるような凄い作品にはなかなかめぐりあえない。通常の展示に加えて、冬景色を描いた作品を、時代ごとの冬の風俗とともに展示する特集展示があった。アーフェルカンプが氷上の遊びを生き生きと描いていた。
 レジデンツのギャラリーを出た後、いかにも観光客向けと思われるレストランで中途半端な味付けのグラーシュ(ハンガリー風の牛のシチュー)を食べてから、今度はルペルティヌムという現代美術館へ。キルヒナーやクリムトの風景画に加え、ココシュカの絵を見ることができた。とりわけ赤が揺らめくキルヒナーの絵が印象的。それ以外に、生活空間にあふれる映像的イメージによってつくられる現代のヴァーチャルなリアリティを抉り出す、同時代のアーティストたちの作品も特集されていた。写真をモデルに描いた作品のなかには面白いものもいくつかあったが、ゲルハルト・リヒターの作品のように凄いものがあるわけではない。
 夜は、再びモーツァルテウムの大ホールで、マーク・ウィグルスワースの指揮するカメラータ・アカデミカの演奏会を聴く。前半にショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第8番をルドルフ・バルシャイが編曲した室内交響曲が演奏されたが、これが凄かった。澄みきったピアニッシモの音が折り重なってゆくラルゴに続いては、凄まじい音で疾走する激烈なアレグロが続く。ヴァイオリンが6人とはとても思えない音だ。しかもけっして響きが混濁することはない。若いメンバーが多いうえ、アンサンブルがしっかりしているので、澄んだ響きの切れ味鋭いフォルテが聴かれる。それが容赦なく打ち込まれてゆくのだ。ウィグルスワースの音楽の運びも実に手堅い。最後のピアニッシモが消え入った後には会場全体が静寂に包まれた。しばらく後にブラヴォーの声が上がったことは言うまでもない。
 休憩後にはモーツァルトの変ホ長調の交響曲(KV. 543)が演奏された。ピリオド楽器の響き(実際ナチュラル・ホルンとナチュラル・トランペットが用いられていた)を生かしながら手堅く組み立てられた、見事な演奏だったと思う。ウィグルスワースが、音楽自体のダイナミズムを生かすかたちで音楽を運んでいたのがとりわけ好ましい。第1楽章と第2楽章の主題は、晴れやかな響きで柔らかに演奏されていた。第2楽章の響きにもう少し奥行きがあればとも思ったが、木管楽器のメロディがたゆたいながら折り重なってゆくあたりは充分に美しい。第3楽章と第4楽章のリズムも実に生き生きとしている。フィナーレにおける弦楽器の各奏者の力演も光る。全体として、カメラータ・アカデミカの演奏は、一昨日のヴィーン・フィルの演奏よりもはるかにすぐれた出来を示していたのではないだろうか。

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