« ザルツブルク旅日記:1月22日 | トップページ | ザルツブルク旅日記:1月24日 »

ザルツブルク旅日記:1月23日

 午前中はモーツァルテウムの大ホールで内田光子とハーゲン弦楽四重奏団の演奏会を聴く。そこでのモーツァルトのト短調のピアノ四重奏曲(KV. 478)の演奏は、これを聴けただけでもザルツブルクまでやって来た甲斐があった、とさえ思われるほどの素晴らしいものであった。
 何よりも内田光子のピアノの存在感が際立つ。ひとつひとつのフレーズが、いやそれどころかひとつひとつの音が、音楽的な必然性で漲っている。冒頭のトゥッティに続くピアノ独奏によるパッセージからして、聴き手の胸をぐっとつかむ魅力に満ちているのだ。内田はひとつひとつのパッセージを、控えめにペダルを用いつつ、澄んだ音で、また十分に考えられたフレージングで歌い込んでゆくが、それでいて音楽が停滞したりすることはない。第一楽章は、モーツァルトの「歌うアレグロ」のなかに、厳しさと優美さを、ニュアンスの無限の変化をたたえながら交錯させつつ駆け抜けてゆく。第二楽章の歌は、この演奏の白眉を示すもの。澄みきった音で切々と歌われる主題を聴いて涙せずにいられようか。ピアノを支えるハーゲン兄弟の清澄な響きも耳を惹く。フィナーレでは、泣きながらの微笑みとデモーニッシュな情熱が交錯するさまが見事に表現されていた。内田光子のピアノとハーゲン兄弟の掛け合いが、目眩く表情の変化を描き出していたように思われる。
 ハーゲン弦楽四重奏団の演奏においては、前回聴いたときも、ヴィブラートを控えた音による澄んだ響きと研ぎ澄まされた表現が心に残ったが、今回はそうしたこの四重奏団の特徴が、モーツァルトにふさわしいどこか密やかな親密さと、表現の冴えに結びついていたのではないだろうか。最初に演奏された「プロシア王」セットの第1番に数えられる弦楽四重奏曲は、澄んだ響きで軽やかに音楽が運ばれるなかに、冴えた表現を示していた。この曲では、クレメンス・ハーゲンのチェロの堂々とした歌も印象的。彼は以前に較べて(体格的にも?)風格を増しているように思われる。
 休憩を挟んでシューマンのピアノ五重奏曲が演奏されたが、こちらは起伏の激しいドラマティックな演奏に仕上がっていた。内田光子も、モーツァルトとは弾き方を変えて、ロマンティックなスケールの大きさを表現していた。とりわけ第二楽章における、両端の密やかさと中間部の激しさの対照がそうした印象をもたらしていたように思う。ここではヴェロニカ・ハーゲンのヴィオラの真摯な表現が際立っていた。第一楽章では、ブリラントなトゥッティの後にさっと雰囲気が変わって、ピアノに始まる優しい歌が連綿と続いてゆくのが実に魅力的。このように全体的に、ドラマティックな起伏の激しさを示しているが、けっして響きが混濁して音楽が重くなることはない。むしろ、冬のザルツブルクの晴れた日の空を思わせる、澄んだ晴れやかさに貫かれた演奏だった。
 演奏会の後は、旧市街のゲトライデ小路にあるモーツァルトの生家を訪れる。通常の展示に、現代美術のアーティストによるインスタレーションが組み合わせてあったが、ややキッチュな印象は拭えない。ここの展示物も、やや傷んできている感じがする。モーツァルトのオペラの古い演出のための絵や、初演当時のチラシなどは興味深く見ることができた。
 その後、ザルツブルクの大聖堂を見てから、フランツィスカーナー教会へ。ミヒャエル・パッヒャーの温かみのある優しさを放つ聖母子の木彫の像と再会する。教会を出た後は、フェストゥングスバーンというケーブルカーに乗って、ホーエンザルツブルク城塞へ向かう。晴れていたため、城塞からザルツブルク街を見渡せたのはよかった。雪に覆われた街を、日に映えて輝くザルツァッハとともに一望する。しかし寒い。城塞の内部では、妙なトイレの付いた大司教の居室やオーストリア国防軍の兵器などが展示されていたけれども、これといって面白いものはない。正直退屈させられた。
 夜は、軽い食事をとった後、マリオネット劇場を訪れる。フィレンツ・フィリチャイ指揮の名盤を用いて、モーツァルトの「後宮からの誘拐」が上演されていた。太っちょのオスミンを含め人形の身のこなしが妙に軽やかなのが気にならなくもないのだけれども、人形遣いは実に見事。とはいえ、録音に合わせて動く人形の立ち振る舞いだけを見ていると、だんだんと眠くなってしまうのも確かで、ところどころ居眠りしてしまった。これまでの疲れがピークに達していたのかもしれない。

IMGP0593 IMGP0594

|

« ザルツブルク旅日記:1月22日 | トップページ | ザルツブルク旅日記:1月24日 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/126937/8411022

この記事へのトラックバック一覧です: ザルツブルク旅日記:1月23日:

« ザルツブルク旅日記:1月22日 | トップページ | ザルツブルク旅日記:1月24日 »