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動物園三題

 水族館には1年に1度はかならず行っているのに、動物園には5年ほど行っていない。井の頭公園の一角にある小さな動物園は「動物園」のうちに入らない、と言われたら、もしかすると小学校5年生のとき、従兄に連れられて上野動物園へ行ったのが最後になるかもしれない。
 そんな具合で動物園にはご無沙汰していたのだが、どういうわけか今年になって3か所も動物園を訪れた。この夏訪れたのが鹿児島の平川動物公園と広島の安佐動物公園。それから、こちらは半年ほど前の話になるが、ベルリンの動物園である。
  広島の安佐動物公園を訪れたのは、実は昨日の話。「ナイト・サファリ」と銘打って、夏休みの時期の土曜日だけに限定して夜間も開園しているので、妻と行ってみたというわけである。昨日はその最終日ということもあってか、大変な人混みであった。早めに行って、午後7時半頃に帰途についた(これが正解)が、その頃には、動物園へ向かう道路は大渋滞になっていた。
 安佐動物公園の展示はどういうわけか「ヒヒ山から」始まる。この「山」を裏からのぞいたり、ヒヒと綱引きができる仕掛けがあったりするあたり工夫が感じられるが、その後しばらくはあまり珍しくもない動物の展示が続く。そこで十数年ぶりに来たという妻に、ここの目玉は何なの、と訊くと、レッサーパンダとのこと。たしかに小高い丘を登りつめたところにあるその展示場の前には人だかりができていた。さすがにどこかの動物園のレッサーパンダのように立ったりはしなかったけれども、活発に愛嬌を振りまいていた。日が落ちて涼しくなっているせいもあるかもしれない。そう言えば、平川動物園にもレッサーパンダはいたのだけれど、昼間見たせいか、ずいぶんおとなしかった。
 やはり夜になると、動物たちの動きは全体的に活発になる。とりわけライオンをはじめ猛獣の類いは、昼間は気のない表情を浮かべてじっとしているくせに、夜になると実に活発に歩き回る。ユーモラスだったのは、餌をもらったツキノワグマの様子。吊るされたプラスチックのケースから餌を取ろうと、立ち上がって一生懸命それを振っていた。笑いを誘う光景ではあるが、こんなクマが近くの山にはうようよいると思うと空恐ろしい。ちなみに、山口県の徳山にある動物園で飼われている雄のマレーグマは、妻の雌熊に餌を横取りされると、立ち上がって頭を抱えるのだそうな。
 さて、お盆に鹿児島の平川動物公園を久しぶりに訪れてみて、こんなに広かっただろうか、と思った。実際、順路にしたがってひと巡りすると、ゆうに3キロはあるとか。小さいころよく歩いたものである。いや、なだめすかして歩かせる親のほうが大変だったかもしれない。
 さて、ここの見せ物は何といってもコアラなのだけれども、昼間、とくに暑い時期はユーカリの木のなかに小さく丸まってほとんど動かない様子だ。とはいえ、この動物園、安佐動物公園に比べて展示している動物の種類がはるかに多い。とくにサルの類い。ネズミに近いものからヒトに近いものまで実に豊富である。その多彩な表情と群居のさまを見ていると、やはり人間の姿と二重写しになってくる。そのせいだろうか。ベルリンの動物園で最も人気があったのは、類人猿をはじめサルの類いであった。平川動物公園では、もう一つ色とりどりの鳥類が間近を歩いたり飛んだりするなかを歩ける一角も気に入った。目を楽しませながらひと息つける場所である。
 さらに平川動物公園で特筆すべきは、遊園地が併設されていること。実は子どものころ、こちらも楽しみだったのだけれども、なかなか連れて行ってもらえなかった。そのころとほとんど変わらない遊具が置いてあったが、少し錆びついている感じ。全体的にさびれた印象は拭えない。今回は観覧車に乗ってみたのだが、化粧の濃い小柄なおばさんに扉を開けてもらったゴンドラのなかには、何とうちわが置いてあった。それを扇ぎながら桜島と鹿児島湾を眺めていたら、だんだんとさっき見たペンギンのように水をかけてもらいたくなってきた。
 先に述べたように、ベルリンの動物園では、サルが人気を集めていたのだが、そのほかにも意外な動物が人気を集めていた。たとえばカバ。大きく口を開けるのを見て、ドイツ人たちが歓声を上げていた。たしかに近くで見るとかなりの迫力がある。その一方で、ジャイアントパンダなどは、それほど人気がない。そのおかげで、上野動物園ではあまり考えられないことだが、笹をかじるのを間近でじっくり眺めることができた。
 ベルリンの動物園を訪れた時間が、ちょうど肉食動物の餌の時間と重なっていて、幸運にも猛獣たちが餌を食べる様子も見ることができた。トラやライオンが、飼育係のおじさんからもらった肉の塊に目を輝かせてしゃぶりつくさまは、間近で見ると凄い。もう一つ面白かったのが、コヨーテの群れの様子。肉のにおいを嗅ぎつけると、いっせいにその方向へ顔を向け、喜び勇んで駆け出す。やがてその肉が自分たちのものでないとわかると、コヨーテたちはまたいっせいに、しょんぼりともとの場所に戻ってゆくのである。
 安佐動物公園においても、平川動物公園においても、飼育係の手書きによる動物の説明や担当している動物のライフ・ヒストリーの報告が目についた。これはきっと以前よりかなり増えているにちがいない。飼育係の熱意と客をつなぎ止めようという工夫の両方を示すものだろう。とはいえ、そうした説明の詳しさという点では、ベルリンの動物園の説明書きは、両者にはるかに抜きん出ている。たしかに、あまり愛想のない「硬い」説明が大半なのだけれども。その「天敵」の項にかならず「ヒト」と書いてあるのには、苦い笑いを禁じえなかった。

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